大阪地方裁判所 昭和41年(む)154号 決定 1966年4月13日
主文
原裁判を取消す。
被疑者土井睦夫を勾留する。
理由
本件準抗告申立の理由は、検察官作成の準抗告及び裁判の執行停止の申立書記載のとおりであるからこれをここに引用する。
よって一件記録を検討するに、原裁判官は本件勾留請求当時すでに本件被疑事実の捜査は起訴可能なまでになされているのであるから検察官としてはただ起訴(あるいは不起訴処分を)するだけで(その後の被告人の拘束については裁判所の職権発動に委ねれば)足り、いたずらに起訴前の拘束を継続すべきではないとの判断のもとに必要性なしという理由で勾留請求を却下したものと認められる。
しかし起訴前の身柄拘束が司法警察職員等の捜査機関ないし検察官の請求によって行われるものであっても、被疑者が住居不定あるいは逃亡の虞れのあるときの身柄拘束は捜査のためのみではなく、将来の裁判あるいは刑の執行を確保するためにもなされるのであって、このばあい勾留の必要性は捜査の完了によって消滅するものではない。ただし、起訴価値が殆どないような軽微な事件のばあい、もしくは請求者の意向から起訴が予想されないばあい、あるいは逮捕の目的が他にあって、当該被疑事件に対する刑罰権の実現はつけ足しで逮捕権限の濫用と目しうるばあいには、被疑者が住居不定あるいは逃亡の虞あるときであっても勾留の必要性はないと考えられるが、本件被疑事実のばあい、事案は軽微であるが被疑者の前科前歴からして、起訴価値がないとはいえず、そのほかに右に挙げたような必要性を阻却する事由も認められない。
そして被疑者の身柄拘束の必要性があるときに、法によって制限的に許容された被疑者に対する逮捕勾留期間をさらに制約することは法の予想しないところであり、制度の建前に反すると考えられる。このばあい捜査が完了しているにもかかわらず、検察官の怠慢等により法の許容する拘束期間を濫用して、いたずらに起訴前の拘束を継続することがあるとすれば、もとよりそれは被疑者の迅速な裁判を受ける権利を害するもので不法な措置といわなければならないが(本件がこれにあたるかどうかがすでに疑問であるが)、これの救済は別途になされるべきものであり、このばあいに被疑者に逃走の虞があるにもかかわらず被疑者を釈放することは、将来の裁判あるいは刑の執行を確保せんとする勾留の本来の目的に矛盾するので、できないと考えるべきである。
したがって勾留請求を却下した原裁判は失当であり、本件申立は理由があるから刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により原裁判を取消し、被疑者土井睦夫を勾留することとする。
よって主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 吉益清 裁判官 梶田英雄 川端敬治)
<以下省略>